勝とうとして戦い、そして負けた男よ (詩) (2003年07月13日 (日) 08時55分)

 勝とうとして戦い
 そして負けた男よ
 あなたはいつも一人だった
 勝とうとして孤独だった
 勝つのも負けるのもあなただけだった
 死はいつも絶対だったが
 あなたの場合、生きるのも絶対だった
 完全な敗北はまだないんだよ
 そして、完全な勝利も
 もう一度やってみればいい
 彼の夕飯がうらやましかったら
 少しわけてもらえばいい
 それだけのことなんだよ
 だから、もう一度やってみればいい
 勝とうとして負けた男たちよ

まるで涙が溢れるように (詩) (2003年07月14日 (月) 20時00分)

 自由でも不自由でもない一日をすごし
 この一日に私は何ら疑問も感じやしなかったが
 床につくころになるとぽっかりと空いた
 一人であることをついに感じてしまった
 すると、涙が溢れるように
 

 さまざまな思いがわきあがった
 不安は風鳴りのようにこだまし
 虚しさは雲のようにそよいでいた
 寂しさは雪のように根深かった
 一人であればあるほど まるで涙が溢れるようだった
 

 決して誰もいないわけではなかった
 気心の知れた友と離れたわけでもなかった
 私が空の真ん中でぽつんとしてしまったとき
 今までの私は 彼、彼女を頼りにしてきた
 でも今はそうしなかった
 一度頼りにしたら ついぞ頼りにしてしまう
 私は私でしかないと
 

 ただ、眠りにつくのがとても怖ければ
 枕はもう濡れた
 
ブロンズクリスマス (超短編小説) (2003年07月14日 (月) 09時56分)

 目抜き通りは聖夜の光にあふれている。/ビービーは吊り革につかまっていた。バスには乗客が四人しかない。車窓の外、人々の笑顔が光と交錯していた。/ふと気づけば、足元に缶詰が転がってきている。/「い、いや、大丈夫ですから」ビービーが拾おうとしたところ、老人はそう言いつつ、あわてて右手を伸ばしてきた。と、その瞬間、彼が抱きかかえている紙袋の缶詰ががらりと雪崩れ落ちてしまう。
 道端では、群衆がバイオリン弾きの女の子に拍手喝采していた。
「お客さん」運転手がマイク越しに言った「停まるまで立たないでくださいよ。お願いしますから。クビが飛んじまう」/すると老人は振り絞るように言った。/「この若い人は立っているじゃないですか」/「あんたびっこ引いてたじゃねえか!」/運転手が怒鳴ると、車内はしんと静まった。/「だいたいびっこ引きなんか乗せたかねえんだよ」/「あきらめなさいよ、社長さん」/水商売風の女がそう言った。/「その缶詰、特売のやつでしょう。がっついているのが悪いのよ」/「パンスケなんかに言われたくない」/「なんですって! あなた、びっこのくせに私の商売にケチつけようっていうの!」
 

 黄昏の町の停車場でビービーは降りた。ベンチに腰掛け、向かいのパン屋を見つめる。ビービーが大好きな女の子が店員だった。/「よお、若いの」隣に座っていたのはヤクザ崩れだった「煙草でもどうだ」/「僕はトバコなら吸えるんですが」/「まあそう怪しむなよ」ヤクザ崩れは灰皿立てから、誰かのしけもくを拾い、ビービーに手渡した。「こんな町で生きてきちゃ誰だってそうはなっちまうけどな」/マッチの火を煙草に寄せると「じゃあな」と、ヤクザ崩れはどこかに行ってしまった。/ビービーは煙を吹きながら、パン屋の女の子を眺める。と、パン屋の女の子と目が合い、彼女はビービーににこっと笑った。「久しぶりね。今までどこに行ってたの」/「それが、地図をなくしちゃって」/「あらまあ! それは大変だったこと! さぞかしおなかが空いたでしょうに。パンの耳ならあげられるわよ。あと牛乳も」/「じゃあ貰おうかな」/「うん。遠慮しないで。だって今夜はクリスマスだもの。それで、これからどこかに行くの」/「教会に行かなくちゃならないんだ」/「あらそう。気をつけてね」/「うん」そう頷くと、ビービーはパン屋の軒先から路地裏に回っていった。/薄暗いビルとビルとの間を潜り抜けていく。/「おい、お前」声がしたほうに目を向けると、薬屋の建物の螺旋階段の真ん中で、黒装束の男が寝転がっていた「お前、教会に行くのか」男は歯まで黒かった。/「そうです。牧師様にパンの耳と牛乳を持っていってあげようと」/「なんだって!」男は跳ね起きた「あの牧師にパンの耳と牛乳を!」男は螺旋階段を瞬く間に下りてくる。そしてビービーの手からパンと牛乳を奪い取った「そいつはやめとけ。牧師の野郎は七面鳥なんてものを食ってやがるんだぞ」/「いえ、本当は牧師様に会いに行くだけです。だから返してください」ビービーはパンと牛乳を奪い返した。/すると、男は瞼を怪訝そうに細める。/「ということは、お前あれだな。生まれも育ちもここってわけだな」/「いえ、ぼくの母さんは誰だかわかりません」/「黙れ!」男は吠えた。「お前今から教会に行くっていうのに、嘘を並べやがるのか!」/「あなたは神じゃありませんから」/チッ、と男は舌を打った。/「確かに俺は神様なんかじゃねえや。ふん。そうさ、俺は腹が減ってただけだ」男は深い溜め息をついた。「悪かったな。じゃあな」男はビービーの肩を叩くと、去っていった。
 月のない夜空に鐘の音がこだまする。
 ビービーはしばらくのあいだ、地面にうつむいた。なんだか悲しかったし、どうすることもできなかった。だから、もうこんな気持ちにならないよう、パンと牛乳はお腹の中に押し込んだ。

リリーのくたくた3マイル (詩) (2003年07月15日 (火) 08時40分)

 母さん、 
 私の名札を剥がしてよ、鉛筆をもぎ取ってよ。
 もう追いつけなくなった、思い描く私には。
 この硬い地では眠ることさえできない。
 雲を見上げていると悲しくなってくる。

 天国まであと3マイル。
 雲の中まであと3マイル。
 ただ、これ以上進めない。

 母さん、
 どっちかわからないよ、風見鶏も動かないよ。
 もう見えなくなった、信じるものは。
 この硬い地では膝さえつけない。

二年前の短歌 (短歌) (2003年07月15日 (火) 08時47分)

 軒先の
  垂れるしずく
   溜まりに落ちて
    広がる香り 秋のわびしさ

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