lillieの3マイル (詩)(2003年06月07日 (土) 10時23分)

 空は厚い雲にさえぎられ、
 石が裸足の足に食い込むその虚しさが、
 胸の中でシャンシャンシャン
 と、タンバリンをうつ。
 砂利の間から草が葉を覗かせ、
 とても乾いている。どこへでも行きますよ、消えますよ。
 学校の階段を下りていくみたいに。
 あと3マイル。
 9マイルあるみたいに。
 あと3マイル。

悶々たる道 (詩) (2003年06月20日 (金) 06時49分)

今までの道が険しかったとしても
それほど大した道でもなかったり

これからの道が大したことないとしても
今まで以上に険しい道だったり

私の将来を望む瞳は いぜん刑罰道具のように重かったり
私の将来に向けた足先は さ迷うことを待っていたり

路上にうつむき 月に背中を丸めたり
靴を橋げたに置き残してみたり
安心できないでいたり

でも、大切なのは
こういうことなのかなあ

勝とうとして戦う男よ (詩) (2003年06月09日 (月) 06時53分)

鉄の世界で勝とうと、
戦う男よ、
あなたは
涙を苦労の暮らしで枯らし
素晴らしきものを黒とし、
ほとばしる太陽で、
海の藻屑までをも
影にさせていた。

あなたが
人々を優しく思う自分の心に、
野鹿のように狩り立てられ、
踏みにじられ、潰され、
もみ消され、燃やされ、
百二十円で売り飛ばされ、
青白い顔で
荒野から逃れてきたとき、
あなたのために、
用意された場所はあった。
例えそれが、
社会の定めの枠内であっても。

ただ、
危険でないことが、
あなたの中で
いつまでも解決されなかった。
思い出してもみてごらん、
安全な場所を。
そして子供のときに出会った墓場。
何の変哲もない朝から
すべてが始まっていた。

だから安心してお入り。
勝とうとして戦う男よ。

ねえ母さん (詩) (2003年06月10日 (火) 09時12分)

ねえ母さん
アイスがあるよ

ねえ母さん
ねえ母さん
わたしね 
今日のテスト
八十二点だったんだよ
先生もすごいって言ってたよ

チェッ

もういいよ
わたし
アイス屋さんに
なるから

母さんにはあげないよ

あげないからね

So young (詩) (2003年06月08日 (日) 17時16分)

私たちがまだ寂しがり屋だったころ
まだお互いが泣き虫だったころ
この場所で決まって待ち合わせ
右手と左手 重ね合わせたね

それからお互い走ったね
あなたはあなたのように
私は私のように
お互い大人になったよ

でも決まって思い出すのは
頬を拭き合っていた若いころ
二人もう 泣かなくなっちゃった

私たちふわり流れる しゃぼんの泡みたいで
離れそうでおぼつかなかった
そんなとき そう ここで待ち合わせ
ふわふわとほっぺた寄せ合ってた

でも決まって夢見るのは
頬を拭き合うでしょう これから先のこと
どうせあなたはまた泣いちゃうわ
だってそうでしょう 泣き虫だもの

 いつまでも若く 若く二人で
 触れ合う葉と葉のささやきみたいに
 見慣れた景色に いつまでも見慣れて
いつまでも若く 若い二人で

重ね々々て日は暮れる (超短編小説) (2003年06月08日 (日) 10時10分)

 夕方、私と妹は何気なく近所を歩いた。
 私がふと振り返ると、妹は足を止めていた。何か思い出すように人気のない小怪の道を見つめている。/妹は吸い込まれるように小怪の道へと入っていき、私はあわてて彼女のあとを追いかけた。/頭上を仰ぐと、桜の青葉が風に揺れていた。/
 妹は十七歳のときに上京した。それから四年、風の便りですら、彼女の近況を伝えてくれはしなかったが、昨日彼女が突然ふらりと帰ってきたのだ。帰郷した訳について何も言ってくれはしない。
 どれくらい歩いただろうか、小怪はやがて突き当たった。
 それは、扉が開かれるように、また、諸手を広げて待ち受ける父親のように、一面、光り輝く麦畑が視界を埋めていった。金色の麦穂が、さらさらと、波音のようにさざめき合い、ただただ聞こえてくるものは、その囁きだけ。
 「ああ、夏の匂いがする」と、妹は言った。彼女は、穂先に舞い散る光の粒に目を細めていた。私は彼女の横顔に悲しくなってしまった。
 しばらくの間、私たちは髪をなびかせていた。/
「ちょっと行ってくるね」ふいに笑顔を見せた妹は、麦穂の茂みの中へ、一人、入っていった。

 私はうれしくなって、一人笑いながら涙を拭う。変わってないな、と。麦穂に腰まで浸かった妹の先に行き着く場所はなく、そして金色の草原は果てしなく、まるで彼女の向かう先が、あの、沈みがかった太陽のようで。
 今年の麦秋も、麦穂の中から小さな頭だけを覗かせていた、そう、私たちが幼かった頃と同じだった。

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