ねえ、里那ちゃん 投稿者:くたくたlillie(詩) (2003年06月20日 (金) 06時23分)

 ねえ、里那ちゃん
 君が何をしているのかわからないけど
 鳥たちも何をしているかわからないんだ
 

 いつものように飛んでいるのかもしれないけど
 さえずりとその姿を消してしまうほど
 今朝の風は嵐のようなんだけど
 

 ねえ、里那ちゃん
 そう、風が嵐のように吹いてはいるけど
 空行く雲がまるで絹のようなんだ

 そしてあの雲が朝日を包んでいるんだ
 日差しはまぶしくもなく あたたかくもなく
 それは君に恋する思いには優しいけれど
 
 ねえ、里那ちゃん
 麦畑があのときの海のようにうごめいていて
 ただ、穂先の音色がさらさらと
 ぼくの寂しいところに落ちてくんだ

 風がひゅうひゅう鳴いているんだ
 笑ったりする人は誰もいないんだ
 誰の姿もない朝にただ
 風が嵐のように吹いているんだ

 ねえ、里那ちゃん
 朝日をあの雲が包んでいるんだ
 日差しはあたたかくもなく
 まぶしくもなく
 ただただぼくの寂しいところに優しいけれど

 やっぱ寂しいよ、里那ちゃん

町の片隅 投稿者:くたくたlillie(その他) (2003年06月28日 (土) 10時36分)

今、暗闇はさえぎられた。
観客は期待を望んだ。
サーカスの運命が、
サーカスっぽくなることへの。
そしてみんなが一緒くたになって、
両腕に手錠をかけ合おうとする。
誰も自由な人など見たくない。
そして自由は本当なのか、と。
わたしと彼はこんなことを毎晩見ている。
町の片隅から。

北原白秋がオルガンを弾き始め、
風船売りは喜ぶ。
「やはりあなたの場合、オルガンでもいいものだ」
すると白秋は、オルガンの鍵盤をジャーンと叩き、
「風船売りがいつから批評家になったんだ!」
「なあに、今の時代、唇には
二千八百円税込みの価値があるんですから」
そう言うと、彼は白秋に風船をひとつあげた。
「じゃ、落ちますんで」と風船売りは背を向け去っていった。
白秋は風船を見上げながら、一人ぽつんと立ち尽くす。
町の片隅で。

ハートのクイーンは、
スペードのキングにこき使われている。
ジャックも商売道具を片付けた。
非の打ち所なくよそよそしく。

そこへやって来たのは人権派弁護士のジョーク。
裁判を起こそうと言う。
また、彼の祖先は、八丈島にいたことがあったのだ。
しかし彼のケースの中は、
何を隠そう、ブラシと手鏡だけだった。
冗談もほどほどに、
タクシーが朝焼けのほうに逃げ飛んでいき、
クイーンは雑誌の切れ端で落ち葉を掃き集める。
町の片隅で。

また、ある孤狼の研究者は、
神様と誘拐の関係について、
五十四年間調べてきた。
無意味なことだという大工もいて、
病院に連れてこうとする看護婦もいた。
しかし彼の無想には、
九十九円の保険金がかけられている。

すると、奴隷が追い落とされた、
その船のマストの上で、
太宰治と志賀直哉が喧嘩をしている。
「お前は芥川を知らないのか」
最新の評論家がメロディーを口ずさみ、
観客たちは歯を剥き出して笑う。
そして、鯨の親子が反捕鯨団体に守られながら、
窓の中を通り過ぎていき、
誰も悲しんだりはしなかった。
町の片隅のことなど。

ディラン曰く、
「あーあ、わかっていることといったら
続けることを続けるだけだ」
そしてとうとうディランも老いた。
そしてわたしも老いてしまうんだろう。
若さはいつも、
町の片隅からだ。

優しさにはお金がかかり、諦めるにはまだ若すぎる (詩) (2003年06月29日 (日) 11時30分)

傘をさすよ、ぼくは。
傘を持っていたからね。
とはいっても、長靴がないや。
ずっと軒の下か。

あーあ、いろいろあったよ。
いろいろさ、ほんと。
傘の先からしずくが落ちることもあったし、
百円玉が千円札になったときもあったしね。
それに、
そろそろさようならって言われたときもあった。

こりゃ、やみそうにもない。
濡れちまいなよ、あんた。

もしも、あんたのベビーが生まれたら、
ここまで伝えに来ておくれよ。
ぼくは待っているよ、雨が降っているから。
雨がやんだら行くよ。
何事も天気次第さ。
あんたの幸運を祈るよ。

今ぐらいの齢だったらわかること (詩) (2003年06月29日 (日) 18時18分)

孤独で 泣きたくて 押し潰されそうなら
帰ってくることを考えてみなさい

そう あなたに拍手ささげる人はいない
夢適うその日まで 誰も振り向かないでしょう
でも あなたが道行き あなたの道行けば
夢適わなくとも あなたは振り返るでしょう
あなたの道をたった一人行けるのは

さあ 耐えなくてもいいの
涙は耐えるものじゃなく 流すものでしょ
誰も耐えたりしているものではないんだよ
そして行っておいで あなたの道を

なんだかサイケデリック (超短編小説) (2003年07月01日 (火) 13時16分)

 町を歩いていると、人波の中、相棒の背中があったんだ。ぼくはついさっき里那ちゃんとお喋りしていたとあって、スキップでもしたいぐらいでさ。飛び跳ねるような声で呼んだんだ。「よお! 相棒!」って。
「はい?」
「あ、」なんだかなあ。こういうときってのはどういう表情をすればいいのかわかんないよ。苦笑をするんだか、ほっぺたあたりをぽりぽり掻くんだか。で、ぼくは「なんだ、この野郎」って言っちまった。喧嘩腰になってね。目をこーんな引ん剥いて。
 ぽかんとしてた、その人。
「なんだってんだよ、この野郎」ってぼくは再度言ったんだ。続けざまに「声かけられてんじゃねえっ」って言って、きびすをくるっと返しちゃったんだな。
 参ったなあ。ぼくだってそんなチンピラまがいのことをする気じゃなかったんだ。でもね、いやだったんだ。苦笑するのも、ほっぺたあたりをぽりぽり掻くのも。だって、苦笑したらいいのか、ほっぺたあたりをぽりぽり掻いたらいいのかっていう選択肢ができちゃってたんだもん。これじゃもう駄目だよ。演技っていうものになっちまうからね。
 でもなんだか悪いことしちゃったよ。

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